「未来の国」と呼ばれ、今 世界から注目を集めているニュージーランド。2021年の世界幸福度ランキングでは上位10カ国中 9カ国がユーロの国々が占める中、ユーロ以外で唯一トップ10に入り込む(ニュージーランドは9位)など、南半球に浮かぶ自然豊かな島国には、世界が憧れる知られざる魅力と、日本が目指すべき多くのヒントがあった。

2018年に出版させてもらったガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND 未来を旅するガイドブック』の取材ツアーでは、191の飲食店・52の宿泊施設・68のオーガニック関連施設・39のワイナリーを実際に訪問。この取材では、人生を豊かに生きる上で大切なことをたくさん学ばせてもらい、ぼくの人生に計り知れないほどの学びと影響を与えてくれた。

そこでこのサイトでは、ぼくら日本人が「今」を心豊かに生きる上で大切だと思うコンテンツを軸に、「ニュージーランドの真の魅力」について発信していくことに。

今回ご紹介するのは、ぼくがガイドブックの取材中に最も感銘を受けた 『On Site(オン・サイト)』 という価値観について。この価値観はニュージーランドのトップを走るレストランやカフェ、ワイナリー、宿泊施設などに共通しているもので、この考え方を自分の人生に取り込ようになってから、自分の働き方、普段食べるものや身に付けるもの、さらには人間関係まで大きく変わり、実に身軽に生きられるようになった。

この価値観は経済中心の考え方とは真逆をいく考え方だが、現代の日本社会に違和感や生き辛さを感じている人にとって、人生を豊かに生きるための1つのヒントになるとぼくはそう確信している。ぜひ最後までご覧ください。

『On Site(オンサイト)』とは?

『On Site』とは直訳すると「目の届く範囲」という意味。「顔が見えること」を大切にし、誰がどんな思いを込めて作っているのか、愛が込められているかを基準にモノを選択する考え方。つまり作られている背景の見えないものは取り扱わないスタンスのことを指す。

『On Site』の代表例といえばファーマーズ・マーケット。地元の生産者さんが自ら育てた野菜や、ハンドメイドのパンやスイーツ、アクセサリーなどがファーマーズ・マーケットでは販売されており、生産者さんの思いやこだわりを直接聞くこと、つまり「顔が見える」ことで、商品への愛着が何倍にも強くなる。そんな温もりを感じた経験が、誰しも少なからず一度はあるはずだ。

ハンドメイドのエコラップを販売する生産者さん。商品も地球に優しいものが多く並ぶ
@Christchurch Farmers Market
観光客が少なく「NZらしさ&ローカル感」を感じられる Marlborough Farmers Market

ニュージーランドでは集落のような小さな村でも、週末になれば各地でファーマーズマーケットが開催され、地元の人たちの交流の場として、多くの人で賑わう。収穫されたばかりの旬な食材。笑顔溢れる人々。そしてこの場で生まれる温もり溢れるエネルギー。ニュージーランドのファーマーズマーケットに足を運べば、「本当の豊かさ」とは何なのか。そんなことを感じられると思う。

究極の形は『Garden to Table』スタイル

しかし、ニュージーランドのすごいところは『On Site』を感じられるのはファーマーズ・マーケットだけではないというところ。ガイドブックで取材した上質でサステイナブルな方針を掲げるレストランやカフェ、ワイナリーのほとんどは、機械や加工品にこだわらない手作業ハンドメイドや、小規模経営へのこだわりを強く持っており、何度もこの『On Site』という言葉を耳にした。

顔が見える、それはつまりカフェやレストランであれば、自分が信頼できる人や地元の知人から食材を仕入れることを指す。そしてその究極とも言える形が、お店が所有する自家農園の収穫物を使って料理を提供する『Garden to Table』スタイル。このスタイルもニュージーランド全土に広がりを見せるなど、この『On Site』という価値観が国全体に根付いてきていることがよくわかる。

Garden to table スタイルで最もハイレベルなのがタウランガにある『George Cafe』。野菜自給率はほぼ100%。

面白いことにニュージーランドでは巨大企業が存在せず、大半が中小企業や家族経営。組織よりも個人の力が強い風潮があり、大量生産よりもホームメイドやハンドクラフトの方を選ぶ傾向が強い。この考え方は「生産性」や「経済」という観点から考えると非効率なのかもしれないが、お互いの信頼がベースにあるからこそ成り立つ形であり、日頃から安心して商品を購入できることや、消費活動に対する不安・ストレスがないことは、ぼくらの幸福度に大きく繋がっていることは、ファーマーズマーケットを想像してもらえれば、ご理解いただけると思う。

『On Site』を最も体現するニュージーランドNo.1 レストラン

ここはぼくが最も感銘を受けたレストランでもあり、ガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』では2ページにも渡って特集しているニュージーランドNo.1レストランが『Gatherings(ギャザリングス)』。ここのレストランは 味・コンセプト・見た目の美しさ・店内の雰囲気・ホスピタリティなどすべてが一級品で、ニュージーランド内では別格で群を抜いていた。ここは基本コース料理なのだが、出てくる1つ1つの料理は実に美しく、繊細な味で、とてもニュージーランドのものとは思えなかった。

【豆知識】ニュージーランドの国旗には ”ユニオンジャック” のマークがあるように、イギリス人の手によって植民地化が進められたこともあって、「食」のレベルは高いとは言えない。外食はとにかく高く「このクオリティーでこの値段!?」と何度悲しくなったことか…(※あくまで個人的な意見です)

お店の規模感としては「レストラン」というよりも「カフェ」に近い感覚で、入れる人数は20名ほど。夜7時前になると、店内はあっという間に満席になった。ぼくはその様子を見て「なんでこんな繁盛しているのに、こんな小さなお店でやっているんだろう?」「もっと席数を増やすか、2号店を出してお店を拡大すればもっと儲かるだろうに」なんて浅はかなことを思った。

ぼくの周りの経営者でも、売上を上げるために2店舗目・3店舗目を経営する人は実に多いし、やはり事業をやるならば売上を上げたい、稼ぎたいと思うのは実に普通のこと。それ自体何も悪いことでも何でもないし、情熱を持って仕事をしている仲間の姿は実にカッコいい。でもオーナーのアレックスに話を伺うと、料理の味と比例するような優しく暖かい口調で、小規模経営へのこだわりや、自分なりの哲学を1つ1つ丁寧に説明してくれた。

ぼくが大切にしているのは ”On Site(オンサイト)” なんだ。食材にしても、料理にしても、自分が心から納得できるものしかお客さんには提供したくない。だからそれには自分が信頼できる人から食材を仕入れる、もしくは自分たちの手で育てるのが一番。食材に関してオーガニック自体にはこだわりはないけど、最高の料理を作るためにいい食材を求めた結果、それが有機栽培のものだっただけなんだ。

そして何よりも、そういった人たちの想いものせて作った料理をちゃんと自分の手でお客さんに届けたい。だから、ぼくにとってはこのサイズのお店がベスト。お客さんとも直接会話をできるし、スタッフの様子もしっかり見られるからね。

従業員にしても、お客さんにしても、ワインや食材まで、すべてちゃんと自分の「目の届く範囲」で経営するスタイルが自分にとって一番だというアレックス。店内とキッチンを行き来し、ゲストの会話もゆっくり楽しむ姿は、ニュージーランドNo.1のレストランとは思えなかった。お店は定休日は週3日で、ランチはせず、営業は夜のみという、ニュージーランドのトップレストランでありながら、実にマイペースかつ小規模な経営スタイルをは貫いており、その哲学を説明してもらった後、自分の浅はかな考えが恥ずかしくなってしまった。

そして取材ツアーを通して、この『On Site』の大切さを強く感じたのが、あるオークランド市内に4店舗展開しているレストランを取材したとき。どの店舗も料理のクオリティーは高く、内装もオシャレなところばかりで、どの店舗も賑わっていた。しかし ある店舗は料理が少し冷めていたり、ある店舗はスタッフの対応がとても悪かったりと、どの店舗にも何かしらの「マイナスポイント」が見受けられた。

やはり大規模になればなるほど「目の届かない範囲」が広がってしまい、何かしらほころびやマイナスポイントが出てしまうのは、日本でもニュージーランドでも同じだった。

『オンサイト』を感じられる取材先 10選

もちろん経営スタイルや生き方に答えがあるわけではないが、そのあり方が美しく、心から感動した取材先に共通していたのは『オンサイト』という価値観を大切にし、『小規模経営へのこだわり』を持っていたレストランやカフェだった。191の飲食店の取材をした中から、ぼくが特にお勧めの「オンサイト」のこだわりを持った取材先 10選をご紹介。

  1. Gatherings(レストラン)
  2. Orphans Kitchen(レストラン)
  3. Fleur’s Place(レストラン)
  4. George Cafe(カフェ)
  5. No.7 Balmac(カフェ)
  6. Little & Friday(カフェ)
  7. Camp Glenorchy(グランピング施設)
  8. Aurum Wines(ワイナリー)
  9. Little Beehive Co-Op(クラフトショップ)

こちらのレストランやカフェに関してはガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』でも詳しく紹介しているので、詳細を知りたい方はぜひ読んでみて欲しい。

ニュージーランドのトップレストランに学ぶ「これからの豊かさ」

この価値観を自分の人生に取り入れるようになってから、ぼくの中で変わったことがたくさんある。

たとえば、普段来ている服。今までは「コスパ」を意識して、できるだけ安く高機能なものを選んでいた。でも今はその服がどういう工程で作られているのか、どんな企業が、どんな思いを持って作っているのか。そんなことを意識してから、自然とオーガニックコットンの生地で作られているものや、地球環境に負荷の少ないエシカルブランドやアウトドアメーカーの服を選ぶようになった。

1つ1つ買うものの値段は高くなったが、『オンサイト』を人生に取り込んだことで、普段食べるものや身に付けるもの、さらには人との付き合い方や働き方まで大きく変わり、実に身軽に生きられるようになった。なぜなら『オン・サイト』という価値観は「売上」ではなく「生き方」を大切にしている哲学だから。

特に大手企業に勤めている人ほど、この価値観に触れることは大きなパラダイムシフトになるんじゃないかと思う。

 草木の天然染料でストールを製作しているアーティスト。Nature Saturday Marketにて。

ちなみに近頃 日本では中村朱美さんの著書「売り上げを減らそう」が話題になっているが、この働き方はニュージーランドではすでに浸透している働き方で、この『On Site』という価値観はこれからの時代における最先端の経営スタイルだと個人的には思っている。

『On Site』とは、1つ1つに愛を込めた丁寧な生き方。

自分が作り手であっても、買い手であっても、まずは普段の「消費のかたち」から少しずつこの『On Site』を人生に取り込んでいくことで、人生の豊かさも確実に変わっていくと、ぼくはそう感じている。

2021. 01.11.
ニュージーランド写真家 トミマツタクヤ

トミマツタクヤが代表を務めるNZ Lifestyle Brand “iti(イティ)” では『Small is Beautiful』をコンセプトに、幸福先進国ニュージーランドに学ぶ「これからの豊かさ」について毎日配信しています。興味のある方はぜひ iti のInstagramページもチェックしてみてください。

トミマツ タクヤ

ニュージーランド写真家

大学卒業後、大手企業に就職するも会社員生活に馴染めず転職を繰り返す。度重なる体調不良をきっかけに会社員生活に終止符を打ち、2013年 世界一周を夢見てニュージーランドへ初渡航。数ヶ月の滞在予定がニュージーランドのライフスタイルやウェルビーイング(心の豊かさ)に衝撃を受けて、1年4ヶ月もの歳月を過ごす。

帰国後は人生観を大きく変えてくれたニュージーランドの魅力を届けるべく、ニュージーランド写真家として活動を開始。『Small is Beautiful -より小さく より美しく-』をテーマに撮影・表現活動を行う。2015年から過去50回に渡り「写真×音楽×ストーリー」を組み合わせた上映会スタイルの写真展『Small is Beautiful』を日本全国で開催。”写真展示のない写真展” として話題を呼び、延べ5000名以上を動員。自身の人生をも変えたそのメッセージと世界観は多くの人の感動を呼ぶ。

2018年9月にはガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』を四角大輔氏らと共に出版。2020年1月にはニュージーランドの最長ロングトレイルコース『テ・アラロア』3,000km縦断に挑戦するも、ロックダウンにより1,100km時点で中断(2022年11月より再開予定)。

2020年5月には幸福先進国ニュージーランドに学ぶ「心豊かな生き方=Small is Beautiful」について学び、実践するための オンラインコミュニティ『iti(イティ)』をスタート。日本にいながらもニュージーランドを感じられるような場を作るべく『iti village project』を起ち上げるなど、“Small is Beautiful” の世界観の追求を続けている。

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